2021 Mar. 17 第14回“光”機到来!Qコロキウム
盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!
発表1:平山 祐(岐阜薬科大・准教授)
「生きた細胞内の鉄イオンを見る:
イメージングにより明らかになってきたこと」
人体には4~5gの鉄が含まれている。栄養素として取り上げられることが多いが、酸化ストレスの根源となる性質も併せ持っており、その細胞内動態や代謝機構は意外にも分かっていないことが多い。多すぎても少なすぎても不調をきたすこの金属イオンを生体はどのように制御しているのか?制御機構はどうやって破綻し、破綻するとどうなるのか?これらの疑問に答えるべく、我々は鉄イオンを選択的に検出できる化学ツールを開発し、様々な蛍光イメージング実験を展開してきた。本講演では、「生命における鉄動態の謎の解明」に向け、我々が化学者の立場から取り組んできた鉄の生命科学研究について紹介したい。
Youtube チャットコメント一覧:
*チャットコメントに対する先生方からの返答はイタリックで追記しました。
質問① Kiyoshi Miyata
戦略がはまって素晴らしいですね! 定量性はどのくらいあるという感触でしょうか?
定量性については、キュベット中では検量線が引けます。どのプローブも0.1 µM ~10 µMくらいの範囲だと直線性が出ることが多いです。ただ、細胞となると、蛍光シグナルから濃度を割り出すことは現状難しいです。細胞での使い方は、刺激等をした際に対照群と比較して蛍光が増減する、という使い方が中心です。
質問② chikako shirataki
プローブの金属選択性を高めるコツが、何かあったりするのでしょうか?
金属選択性については、最初のプローブがほぼ完璧な二価鉄選択性を示し、他のプローブもN-オキシドにさえすれば二価鉄にしか応答しないので、選択性を高めるための工夫というのは特に行なっていません。選択性の理由は、二価の金属イオンの中では二価鉄イオンが最も還元力が高く、酸素との親和性が高いためだと考えています。
質問③ Tomoyuki Hamachi
鉄(ii)の動的挙動を追跡する際、色素の応答速度も重要なファクターになりそうですが、どのくらいの応答速度を持つのでしょうか?
正確な二次速度定数を求めたわけではないのですが、プローブ2 µM、二価鉄 20 µMを中性の緩衝液中で反応させると、ものによって差はありますが、速いものだとみかけの速度定数(kobs)として1 × 10−3 s−1程度 の応答速度です。質疑の時間でも議論させていただきましたが、当然もっと応答速度が速いものだと速く起こる現象もみられるはずですが、もうひと工夫必要になってくると思います。
質問④ hirotaka nakagami
各色素の蛍光量子集率はどのくらいあるのでしょうか?
プローブ自体はもともとほぼ蛍光がなく、量子収率は0.05以下にとどまります。(ほとんどが検出限界以下です)。それぞれの母核になっている蛍光分子(カッコ内は対応するプローブ名)についてはうちで測定した結果ですが以下のとおりです。
ローダミンB (RhoNox-1): 0.9、Coumarin-6H (CoNox-1): 0.92、Morphorinorhodol (FluNox-1): 0.15、SiRhodamine B (SiRhoNox-1): 0.34。
質問⑤ Koji Oohora
還元的環境であれば、鉄は触媒的にプローブを蛍光型に変換しているのでしょうか?
そのとおりです。N−オキシドと二価鉄が反応すると三価鉄になるのですが、細胞内だとグルタチオンやNADHによってすぐに二価鉄になる(はず)です。この性質は、プローブにより二価鉄の濃度自体に影響が出にくい、という点、触媒的に蛍光シグナルが増幅される点においてメリットだと考えています。
質問⑥ Kiyoshi Miyata
へム選択性の原理がすごく気になります…!
質疑のときにお話はさせていただきましたが、論文が未発表なのでここでは控えさせてください。
質問⑦ Yusuke ISHIGAKI
Ph-Biを選択(設計)した理由をぜひ伺いたいです。
ローダミン骨格の10位の酸素原子をケイ素やリン(V)に置換した化合物が面白い光物性を示すことが報告されていて、どうせなら一番大きな安定元素を入れてやろう、と興味本位でデザインしたのがビスマス導入型のローダミンです。
質問⑧ Nobuhiro Yanai
逆にこれまで出てきたプローブはヘム鉄では反応しないのでしょうか?鉄はどういった構造でいることが多いんでしょうか。
これまで作ったプローブについては、ヘムと二価鉄に対する反応性をスクリーニングしたことがあります。結果は、ものによってかなり差があり、RhoNox-4などはヘムにもある程度応答することがわかっています。
いわゆる遊離状態の鉄イオンは、細胞内グルタチオンの濃度、結合定数などからグルタチオンとの複合体として存在していると考えています。
質問⑨ Yosuke Tani
N-オキシドの反応効率に興味があります。プローブは各細胞内にいくつくらい入っているのか、どれくらいの濃度の鉄(II)があると発光として見えるのか、など分子レベルではどの程度理解が進んでいるのでしょうか?
例えばRhoNox-4に10当量の二価鉄を入れた場合だとキュベット中では30分後にはほぼ100%反応が進行します。
プローブの細胞内濃度は厳密には決められていませんが、細胞内外の濃度が1 µMで同じだと仮定した場合、細胞の体積は約2~3 pL程度なので、(10−6) × (2 × 10−12) × 6 × 1023 = 1.2 × 106個の分子が一つの細胞内に入っている計算になります。
実際に細胞内の遊離鉄濃度は、様々な細胞内の鉄結合分子との結合定数から、数µM前後で推移していると考えられます。
質問⑩ 土屋陽一
脂溶性を高めると応答性が良くなるというのは二価鉄が脂質膜界面に局在しているということでしょうか?
脂溶性を高めるのは細胞でのパフォーマンスを上げるために実施しました。脂溶性を高めると細胞膜透過性が上がり、細胞の中にプローブが取り込まれやすくなって応答が良くなるだろうと考えたからです。実際、RhoNox-4(Boc基を持つ)は最も脂溶性が高く、細胞での機能が良かったのは脂溶性が寄与していると考えています。
キュベット中でも応答性が良くなっているのですが、それは予期していたわけではなく、嬉しい誤算でした。要因はよくわかっていません。
発表2:小野 利和(九州大学・准教授)
「パズルの要領で分子を並べ機能性色素を作る
〜分子の形と相互作用は計画的に〜」
機能性色素は、ほぼ無限の分子設計が可能なことに大きな強みを持ち、計算化学と有機合成化学との融合により、所望の性質を持つ機能性色素の創製が可能となりつつある。我々はこの潮流に対し、複数成分の分子(二成分、三成分、それ以上)を用いて、その組み合わせを工夫すれば、乗算的に新しい機能性色素の開発が可能になると着想した。本講演では、分子の形と相互作用に着目した有機多成分結晶の創製について紹介するとともに、外部環境(圧力、酸、ガス等)の変化に応答し、光吸収や発光特性変化を示す光学センサ材料としての応用について紹介したい。
Youtube チャットコメント一覧:
質問① Kiyoshi Miyata
うまく組み合わせるとエキサイプレックスを利用したTADFのような挙動は見られるのでしょうか?
質問② Koji Oohora
数パーセントのドーピングで白色になるのが不思議に思いました。量子収率の違いでしょうか?それともかなり効率よくエネルギー移動が起こっているのでしょうか?
質問③ Yusuke ISHIGAKI
ヨウ素の外部重原子効果とのことでしたが、ホスト分子とヨウ素間のハロゲン結合が影響している可能性はあるでしょうか?
質問④ Kiyoshi Miyata
ホストを大きく、という方向性の話でしたが、逆にゲストを大きくしていく方向性は(もちろんまずはホストが大きくないとでしょうけど…)どのような感触でしょうか?
質問⑤ Kiyoshi Miyata
ベイポクロミズムはアモルファス→結晶の変化が起きているということで理解はあってますでしょうか。であれば、例えばすりつぶすなどの刺激でゲストを追い出せば、可逆性が出せたりする可能性はありますか?
質問⑥ Yoichi Sasaki
3成分結晶を種として、異なるゲスト分子の溶液中で再結晶することでコアシェル型の4成分結晶を作ることは可能でしょうか?
質問⑦ Yosuke Tani
ゲストが100%入っていないときの発光挙動に興味があります。ヨードベンゼンを減圧して?飛ばしたお話がありましたが、蛍光分子を飛ばした場合には量子収率などはどう変化するのでしょうか。また、ゲストが100%入っていないときの結晶構造は解けるのでしょうか(ディスオーダー)?
質問⑧ Kiyoshi Miyata
ピエゾクロミズムも興味深いですね。発光かなり変化していますが、吸収スペクトルの方は変化はどうなんでしょうか?
質問⑨ Tomoyuki Hamachi
ピエゾクロミズムについて、圧力の異方性はありますか?例えばベンゼン環が近づく方向に集中して圧力をかければさらなるレッドシフトが望めますか?逆に、全方位から圧力をかけた際にベンゼン環が近づく方に力が働くのはどのような要因によりますか?
質問⑩ Tomohiro Ishii
聞き逃したかもしれませんが、共結晶化による電気特性(移動度等)の制御は可能でしょうか?
質問⑪ 土屋陽一
ゲストを抜いて様々なゲストを入れるということをされていましたが、ゲストが入っている状態での交換は可能でしょうか?また、可能であれば、交換速度からわずかに構造の異なるゲストの相対的な相互作用の強さなどを調べられるのでしょうか?
質問⑫土屋陽一
もうひとつ、一度抜いて異なるゲストを入れる場合、混ぜただけでは共結晶ができないが、再導入では共結晶ができるというようなゲストもあるのですか?