2021 Jun. 23 第17回“光”機到来!Qコロキウム
盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!
発表1:伊澤 誠一郎(分子科学研究所・助教)
「有機半導体界面での光電変換機能の開拓 ~有機太陽電池からフォトンアップコンバージョンまで~」
有機半導体界面では、電荷分離・再結合など有機太陽電池で最も重要な光電変換素過程が起こる。そのため、さらなる光電変換効率の向上のためには、界面近傍の分子層スケールの構造と光電変換素過程との相関を正しく理解することが重要である。さらに界面での電荷分離・再結合原理を応用することで、重原子を用いなくても近赤外光を可視光に高効率に変換できる新原理のフォトンアップコンバージョンや、乾電池1本分の起電力で高輝度に発光する有機ELデバイスを実現した。本講演では、これらの中心概念である有機半導体界面での光電変換について、その特長と可能性について議論したい。
Youtube チャットコメント一覧:
*チャットコメントに対する先生方からの返答はイタリックで追記しました。
質問① Kiyoshi Miyata
電荷分離後のT1の生成はドナー側でもアクセプター側でも起きてもよさそうな気もしますが、T1がうまいことRubrene側で生じるのは、T1のエネルギーがY6より小さいからでしょうか?
今回、近赤外吸収分子として、Y6とITIC-Clの二つを示しましたが、T1のエネルギー準位はY6<Rub<ITIC-Clとなっています。ITIC-Clの方がY6より効率が高い要因がこのT1のエネルギー準位の差による可能性があります。ただY6に関してもそれなりに高い量子収率が出ているので、RubのT1が優先的にできる何らかの要因がある可能性があります。
質問② Kiyoshi Miyata
本当に素晴らしい着想で感銘を受けました。測るの難しそうですが、界面CT状態でのISCの時定数はどのくらいなのでしょうか? 典型的な有機分子の10-20 nsと比較して早いのか遅いのか気になりました。
UCのトータルの発光寿命が20 µsになります。今回、スピン反転の過程はCT1→Free charge→CT3と起きていて、二分子再結合寿命はµsオーダーなので、だいたいそれと同様のタイムスケールだと予想できます。
質問③ Tomohiro Ishii
非常に面白い発表ありがとうございました。界面CTでdelta ESTがゼロになるというところがフォローできませんでしたので、もう一度ご説明願えないでしょうか?
単純にD/Aの距離が遠いからです。TADF分子は分子内CTですが、界面CTは分子間CTになるので、より距離が離れていて、delta ESTがより小さくなります。計算によるシミュレーション結果だと10meVという報告もありますが、CT状態とfree chargeは平衡状態にあるので、寿命が十分にあれば自在に行き来できると考えていいと思います。
質問④
変な質問かもしれませんが、S1以上の電圧が必要だったところがT1の電圧でいけるようになったのが低電圧駆動の理由とされていましたが、T1以上S1未満の電圧であればT1が選択的にできているようなことがあってもよいというようなイメージなんでしょうか?
CT状態を介さずにT1に直接電荷注入することは難しいと思います。というのもT1などの分子の励起準位は、電荷輸送を担うHOMO-LUMOの電子準位の差から励起子束縛エネルギー、ΔEst分だけ安定化したものになりますので、そのエネルギーを失うことになると思います。CT状態はそれらのエネルギーが小さいため、CTから直接T1へのエネルギー移動を行ったことにより今回の低電圧化が実現できたと思います。
質問⑤ Kiyoshi MIYATA
汚い界面(不均一な界面と)と綺麗な界面だとどちらの方が効率が上がるのでしょうか? 移動してるかどうかの問題を考えるきっかけになるかなと思っての質問です。
蒸着、スピンコートともに再現性良く同質の膜ができるので、これは実験的にはいいことでもあり、ですが界面構造の微妙なコントロールを実験的に行うのは非常に難しいです。現状、作製した膜では、ダークスポットなどはなく、きれいな面発光を生じます。
発表2:今田 裕(理化学研究所・上級研究員)
「極微分光で観る近接場光と単一分子の相互作用」
金属微細構造に光を照射すると、数nmの領域に局在した電磁場(近接場光)が誘起され、局所的に光と物質の相互作用を増強する。この増強効果を基盤とした様々な応用研究が進展する一方で、近接場光が極めて小さく、相互作用の詳細を精密に調べることはこれまで困難であった。我々は、走査トンネル顕微鏡(STM)と光技術を組み合わせた光STMを独自に開発し、STM探針直下に局在する近接場光の研究を行っている。本講演では、単一分子という対称性の定まった物質を試料にした光STM分光計測によって近年明らかになりつつある、近接場光と物質の相互作用の分子・原子スケールでの描像を議論したい。
Youtube チャットコメント一覧:
質問① Kiyoshi MIYATA
10年以上再現されなかった理由が気になりますね、単純に技術的に難しいからという要因が大きいとは思いますが…。
質問② Kiyoshi MIYATA
Tip形状でうまくプラズモンを調節するのすごい技術ですね…! 局在プラズモンの大きさはTipよりは大きくなりそうな気もしますが、空間分解能が変わったりしそうですがどんな感触でしょうか?
質問③ Kiyoshi MIYATA
対称性を使った説明が美しすぎますね! 逆にTipを真上に持ってくると励起できないという理解であってますでしょうか?
質問④ Fumitaka Ishiwari
見えすぎですね…ラマンMappingは何nmおきに行ったんでしょうか?
質問⑤ Yuh Y
Raman計測のとき、(1)クライオスタット内のレンズの焦点距離はどれくらいでしょうか?(2)1m Wの光をSTM tip付近に集光したときに熱膨張の影響などはないのでしょうか?
コメント❶ Fumitaka Ishiwari
見えてしまっていることが逆に恐怖
コメント❷ Kiyoshi MIYATA
↑同感です。笑 すごすぎですね。。
コメント❸ Fumitaka Ishiwari
すごすぎィィィィィィ!!!!!
質問⑥ Youichi Tsuchiya (OPERA, Kyushu Univ.)
単一分子の励起スペクトルの線幅が細いことに関連して、CT性の発光分子を測定すると、そのCT吸収の振動準位を分解することは可能でしょうか?
質問⑦ Kobe EP1A
フタロシアニン分子とSTM短針、Agミラー構造と強結合させてその状態を観測することは可能ですか
コメント❹ kuniyuki miwa
共同研究者ですが、FC因子を計算する際に、S0とS1の電子状態でそれぞれ振動モードを計算しております。
質問⑧ Yuh Y
PLEに関連して、波長可変光源を照射時にSTM tipの高さを固定して、トンネル電流量の変化(光電流)から励起・振動準位の評価などは可能でしょうか?