2020 Jul. 30 第4回“光”機到来!Qコロキウム
盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!
発表1:石井 あゆみ(桐蔭横浜大院工・特任講師)
見えない光を操るハイブリッドナノ材料の開発
人間が見えている光は限られています。見えない光、例えば、近赤外光や偏光は、エネルギー・環境・医療・情報通信などの分野で利用価値が高く、これらを利用した新しい光技術の開発が望まれています。私たちは、無機ナノ結晶と有機分子を融合した特異的な構造を利用し、近赤外や円偏光などの見えない光を操作(検出・変換・増幅)する光電子デバイスやナノ材料の開発を進めています。本講演では、アップコンバージョン発光や近赤外電界発光、円偏光検出など特異的な光機能を示すハイブリッド材料について紹介します。
Youtube チャットコメント一覧:
*宮田からの返答はイタリックで追記しました。
質問① 松井Y
カチオン性色素を使われていますが理由はありますか?
質問② Kiyoshi Miyata
近赤外太陽電池すごいですね…! CsPbI3は室温で安定性が割りイメージがあるのですが問題にならなかったのですか?
質問③ Kiyoshi Miyata
逆に濃度消光は問題にならないのですか?
質問④ Kiyoshi Miyata
PbとYbで価数が違うのは構造に影響しないということですか?
質問⑤ Kiyoshi Miyata
ELでCsPbCl3の発光はまったくでませんか?
質問⑥ Takashi Hirose
ドープのCsPbCl3のNIR発光について、発光寿命 1.68 ns, PLQY = 62.3%とすると、Ybからの輻射速度がかなり高速になるかと思います。Ybの発光遷移は禁制なのではなかったでしょうか?高速な発光速度はどのように説明できますか?
質問⑦ Yoichi Sasaki
PMQuantum cuttingに基づくエネルギー移動の速度定数はどのくらいなのでしょうか?
質問⑧ Kiyoshi Miyata
1Dの吸収スペクトルにエキシトンのピークが見えないのはどう理解できますか?
質問⑨ O O
こちらの結晶薄膜は単結晶という認識で正しいのでしょうか?
質問⑩ Yuto Yabuuchi
聞き逃していたらごめんなさいなんですが、アップコンバージョンの話で、内部のコアのサイズは機能に影響するんでしょうか?言い換えると今回のランタノイドを含んだナノ粒子は金属のようなバンド構造は取っているんでしょうか?それとも分子的に明瞭なエネルギー準位をもって吸収したり発光したりするのでしょうか?
質問⑪ Kiyoshi Miyata
左円偏光と右円偏光照射時の電流の時間特性が異なるように見えるのは理由がありますか?
質問⑫ 創 櫛田
フォトダイオードとして使用するときに円偏光からくる強度比の差なのか円偏光からくる差なのかどう判別するのかがわからなかったのですが、いかがでしょうか?
すみません!僕が言いたかったのは円偏光状態がわからない状態で実際の電流値をどう解釈するのかが気になりました!
質問⑬ O O
結晶中の螺旋軸がやや傾いているように記述されていますが,こちらを基板に対し垂直に配向させることでより検出効率は上昇することはありますか?
質問⑭ Kiyoshi Miyata
発光は円偏光発光なんでしょうか?
質問⑮ ynsktn
基礎的な質問で恐縮ですが、無機結晶で振動緩和を抑制するにはどんなアプローチがあるのでしょうか?有機分子であれば結晶化させると抑制できると考えられていますが、無機物は最初から結晶なので、考え方を教えていただけると嬉しいです。
発表2:平井 健二(北大電子研・准教授)
量子ゆらぎを利用した有機反応と自己集合
光を照射していない空間でも電磁場のゆらぎがある。光共振器を使うと、この量子ゆらぎと原子・分子を強く相互作用させることが可能となる。光共振器と分子振動のエネルギー準位が一致すると振動強結合と呼ばれる状態になり、混成状態が上枝と下枝に分裂したラビ分裂という現象を見せる。本講演では、光共振器の中で起こる有機反応や自己集合について紹介する。
Youtube チャットコメント一覧:
質問① Kiyoshi Miyata
ポラリトンで分裂しているスペクトルでTransmissionが上がっているというのは逆に吸収が減っているようにも思えるのですが、どう説明できますでしょうか?
光共振器では、共振波数に応じて周期的に透過率が上昇します。光共振器の中で定在波として存在可能な光は共振器内で完全に散乱されずに透過してくるためで
す。共振器内に分子がいない状態では、共振器モード付近のプローブ光は完全に散乱されることなく、共振器を通り抜けてくるので、この波数帯の透過率は0にはなりません。強結合状態では、共振器モードの準位の光は混成状態を形成するために使われるため、共振器を抜けてこなくなります。そのため、共振器モードの真ん中付近の透過率が0になり、両端が残ります。
質問② 石井智大
励起子ポラリトンの場合ですとラビ分裂の大きさは遷移双極子モーメントによって決まってくると思うのですが、振動polariton場合の分裂幅はどのようなパラメータによって決定されますか?
分裂幅は分子固有の振動モードの吸収にも依存しますが、実験的には分子数の2分の1乗に比例します。また、共振器内の光子の数をnとしたとき、分裂幅は(n+1)の2分の1乗に比例します。
質問③ Kiyoshi Miyata
実際dって何マイクロメートルくらいなんでしょうか?
ミラー間に1ミクロンから5ミクロンのフィルムを挟んで実験をしています。
実際には反射する金への光の潜り込み、金を被覆するためのSiO2や樹脂の厚みも加わります。また、圧着した状態でもミラーとフィルムの間に空隙が存在するためか、実際のdの値はかなり大きくなり、8ミクロンから20ミクロン程度の範囲で実験しています。
質問④ 石井智大
振動エネルギー準位からLP状態への緩和過程の時間ダイナミクスを解析した研究等はございますか?
光共振器中で強結合状態にないdark stateとlower branchとの間のdynamicsを研究している報告は結構あります。強結合にある状態で、中赤外のポンプ光を入れて、ポンプ光と入射角が異なるプローブ光でdyanamicsを観測しています。以下に報告を挙げます。
Nat. Commun. 2016, 7, 13504; PNAS 2018, 115 4845; J. Phys. Chem. A 2019, 123, 5918; Sci. Adv. 2019; 5, eaax5196; ACS Photonics 2020, 7, 4, 919
質問⑤ 田中 駿介
気体分子の反応、例えばCO2+H2⇒CH3OHなど、を対象にしている研究などはあるのでしょうか?
分裂幅が分子数の2分の1乗に比例します。気相の場合、光共振器内の分子数が少ないので、強結合状態になりにくく、報告例はありません。
質問⑥ Takashi Hirose
共振器中で反応器が加速するのか、もしくは減速するのかは、理論計算などで予測は可能なのでしょうか?例えば、どの振動モードを振動強結合させると効率よく反応速度をmodulateできるか?などが予測できれば面白いと感じました。
現状、実験結果を追うように理論が更新されていると思います。反応の減速に関しては、Cavity Born-Oppenheimer近似が減速に関する現象を捉えていると思いますが、加速に関しては理論的にはきれいに説明できていないように思います。この点に関しては分野の発展と共に少しずつ明らかになっていくかもしれません。
質問⑦ Nobuhiro Yanai
例えばカルボニルはどのように構造変化しているんでしょうか?水素結合にも影響を与えそうでしょうか?
ポテンシャル曲面がsqueezeされることが理論的には予測されているので、振動に関する原子核の座標が変化しているということだと思います。水素結合にも影響を与えると思っています。
室温⑧ TH
共振器長は任意に制御し、結合定数を変化させることはできるでしょうか?
光共振器に取り付けているマイクロスクリューを調製することで共振器長の調整は可能です。共振器長の調整で結合状態を調整することも可能です。
質問⑨ Tomokazu Yasuike
遷移状態の反応座標に直交するモードを modulation して反応速度がどう変化するかなどは検討されていますでしょうか.
我々の実験では検討しておりません。恐らく、まだ報告例もないと思います。
質問⑩ 山田 鉄兵
面白い話をありがとうございます。IR光を直接照射するのとは違う効果が出るのでしょうか?
通常のIR光を照射した場合、遷移→緩和が起こるのみですが、振動モードと共振器モードの混成状態をつくることで、新しいエネルギー準位を創り出しています。この状態が反応性や溶媒和に影響を与えていると解釈しています。
質問⑪ Kiyoshi Miyata
結晶生成はキャビティ内で空間分布ありますか? 真ん中からできるとか端っこからできるとかちょっと区別難しいですかね…光の振幅は橋だとゼロになるのdえそのあたり影響するのか気になりました
共振器内にも電場の節の部分(例えばミラー近傍)があります。その部位に存在する分子は強結合しません。また、電場の振動方向に対して、遷移双極子モーメントが直交する配置にある分子も強結合しません。光共振器内で強結合していない分子が存在することは、共振器のミラーの鉛直方向から角度をずらしてプローブ光を入射することで、観測されています。光共振器内に存在する分子の状態にも分布がありますので、生成物については平均化された結果を見ていると解釈するべきだと思います。
質問⑫ Takashi Hirose
結晶成長にも影響を与える知見が得られているんですね。とても面白い。気相での結晶成長(昇華結晶化)を共振器中で行う実験系を組むことはできますか?溶媒和のない状態での結晶成長でも共振器の影響が見られるのかどうか気になりました。
分裂幅が分子数の2分の1乗に比例します。気相の場合、光共振器内の分子数が少ないので、強結合状態になりにくく、気相での実験は困難だと思います。
質問⑬ 石井智大
LP状態でポテンシャル局面はどのように変化してきますか?
強結合状態でのポテンシャル曲面の変化に関しては以下の論文で説明されています。LPの準位でも原子核の座標の範囲が変化していることが分かると思います。
J. Chem. Theory Comput. 2017, 13, 1616; Phys. Rev. X 2019, 9, 1-20
質問⑭ Ryusei Oketani
溶媒の振動にあわせて共振器のモードを調整されていますが、基質分子の振動に合わせることによって会合状態を制御することは可能でしょうか?
基質分子の振動を強結合させる研究は現在進行中です。本来は、錯形成する官能基を強結合させるべきだと思います。
質問⑮ Ryusei Oketani
すみません。反応の温度制御や上限、下限について教えていただけますと幸いです。
反応温度に関しては、10度から40度の範囲で実験しています。高温にすると共振器の窓が内圧に耐えられないかもしれません。この辺りは実験器具の問題なので、解決可能です。最終的には、温度範囲に関しては、溶媒の凝固点などの分子依存の制限になると思います。
質問⑯ 田代啓悟
先ほどの廣瀬先生のご質問のご回答に気になるところがあったのですが、吸収光量をあげたら低濃度でも強結合が起こることと、濃度の1/2乗に比例するという事実は、反応速度式を求めた際の吸収光量の項が濃度の1/2乗の関数になっていることを示しているのでしょうか理解できていなくて大変申し訳ないです
強結合状態では分裂エネルギーの大きさが濃度の1/2乗に比例します。これは強結合が分子のアンサンブルな現象であることに起因します。吸光量の関数の変化を示しているわけではないと思います。