2021 Feb. 26 第13回“光”機到来!Qコロキウム

盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!

発表1:加納 英明(九州大・教授)
生細胞を染めずに見る ~非線形ラマン散乱が拓く新しい生命物理化学~

生きた細胞中での動的生命現象を分子レベルかつリアルタイムで追跡することは、分子科学・生命科学双方における究極の目標の一つである。このような視点に基づいて、生細胞内で機能する分子の振る舞いを研究する様々な手法が開発されている。これらの中でも、ラマン分光法は、生細胞内の分子分布やその動態を、非染色・非標識・非破壊・低侵襲でその場観察することのできる、非常に強力な方法である。本講演では、微弱なラマン散乱光を増幅するcoherent anti-Stokes Raman scattering (CARS)過程を用いた非線形ラマン散乱顕微鏡の開発と、それを用いた生細胞、生体組織のラベルフリーイメージングについて紹介する。

Youtube チャットコメント一覧:

*チャットコメントに対する先生方からの返答はイタリックで追記しました。

質問① Kiyoshi Miyata

CARS顕微鏡は深さ方向の分解能はどのくらいだせる感じですか?

レーザーを集光する対物に依存します。波長が1ミクロン以上なので、trial and error中です。現在の装置では、だいたい数ミクロン前後です。

質問② Kiyoshi Miyata

一枚の画像を取るのにどのくらいの測定時間になるのが一般的なイメージでしょうか。あと、スペクトルの一般的な波数分解能も気になります。

典型的には、50 ms/pixelで取ってますので、50ミクロン四方を0.5ミクロンピッチで取ったら8分ぐらいです(一番早くて<1 ms/pixelです)。波数分解能は、分光器で決まっていて、~8 cm-1です。細胞などのスペクトルは割と幅広いので、十分な分解能です。

質問③ Tomokazu Yasuike

定量は可能ですか?

はい、可能です。縦軸は、分子数(密度)とラマン散乱断面積に比例します。

質問④ Kiyoshi Miyata

507 cm-1付近の振動スペクトルの形状も違っているように見えますが、これは何に起因すると考えられますでしょうか。

今回見つけたポリ硫化物とグリコーゲンの二つの信号が重なっているので、位置ごとにスペクトルの形が異なっています。バンド分割したら、それぞれ別々のコントラストのイメージになりました。

質問⑤ Yoshiteru Shishido

強固な細胞や生物というとアンヒドロビオシスによるミイラ化(これはトレハロースが関係していた気がしますが)やクマムシ(タンパク質が関与している?)などがありますが硫化物や糖との関連はあるのでしょうか?

今のところ、わかりません。現時点の知見としては、以下の通りです;通常培養ではポリ硫化物は細胞壁付近にできません。グリコーゲンも、細胞内にある感じです。

質問⑥ Yoshiteru Shishido

物理化学的にはスペクトルが変化しているとは思いますが糖と硫化物のスペクトル変化という意味で教えていただけるとありがたいです。

これも、見つけたばかりなので、今のところわかりません。

質問⑦ 宮前孝行

レーザー照射による細胞へのダメージはないのでしょうか?

近赤外光のおかげで、なんとかもちこたえているようです。が、残念ながら(!)、ないわけではないです。例えば、現在の入射光強度では、色素体は脱色してしまいます。

質問⑧ Nobuhiro Yanai

生体組織のどの程度深い場所まで測定が可能でしょうか?

対物に依存するので、一般的には申し上げられませんが、今の対物ですと100ミクロン程度ぐらいです。

質問⑨ Yasuyuki Ozeki

いつも大変面白いご講演ありがとうございます。興味深い観察対象をどうやって見つけてくるのか教えていただけますでしょうか。

ありがとうございます!友人になって頂けそうな方がいないか、いつもキョロキョロしています。

質問⑩

TCAや解糖系などの主要代謝産物の直接計測は可能でしょうか?特に、計測しやすい分子の特徴などがあれば教えていただきたいです。

主要代謝産物の直接計測は、新しい研究室で実は狙っているところです。=これから、です。。

発表2:石田 康博(理化学研究所・チームリーダー)
「殆どが水でできたフォトニック結晶:光を操るための全く新しいツール 」

フォトニック結晶とは、屈折率ギャップを持つ数百nm周期の構造体であり、光の性質を操る究極のツールである。「結晶」の名の通り、通常は固体で構成されるため、その研究は格子のサイズや方向が変わらない(変えられない)ことを前提としてきた。しかしながら、もし水のような流体を使ってフォトニック結晶を構築できたなら、一体何が起こるだろうか? 従来のフォトニック結晶では想定されてこなかった数々の機能が期待され、基礎と応用の両面に革新をもたらすことは間違いない。我々は数年前、99%の水と1%の無機コロイドからなるフォトニック結晶を偶然に見出した。本講演では、発見に至る経緯・基礎特性・応用展開について紹介する。

Youtube チャットコメント一覧:

コメント❶ Kiyoshi Miyata

丁寧に紹介いただきありがとうございます! 恐縮です。

宮田先生には、一昨年に理研までお運び頂き、有難うございました。

コメント❷ Kiyshi Miyata

TiO2のナノシート、低次元化・配向制御によってどのように光触媒機能が変調されるか大変興味あります。

バルクのTiO2と比べ、ナノシート化したTiO2の吸収スペクトルは短波長シフトします。この現象は、ナノシート厚み方向に量子サイズ効果が働くためだと言われています。また、ナノシート化したTiO2を光励起した後、酸化反応はシート表面で、還元反応はシートのエッジで進行しやすいことを示唆する報告もあります。この辺りは、TiO2ナノシートのみならず、ベロブスカイト構造のナノシートについても、今後、極めて興味を持たれているところです。

質問① Kiyoshi Miyata

ペンギンの絵には僕は画面の向こうで笑わされていました。笑 本当にあり得ない構造に見えますね…すごいです。層構造の間隔は静電反発のバランスということで理解はあってますでしょうか? それにしてもそこまで揃っているのはすごいですね…!

ペンギンの絵、お粗末様です。ご理解のとおりであり、ナノシート層構造の間隔は、静電反発力とファンデルワールス引力とのつり合うところ(=両者のポテンシャルエネルギーが最小となるところ)に落ち着きます。

質問② Kiyoshi Miyata

究極的にはフーリエ変換型の分光器とかも作れそうですね(我ながらちょっと無理がありそう)。どのくらいの早さで変化させられるのか興味があります。

>耐久性に自信がありませんが、分光器として使えたらすごいですね。温度に対する応答速度はそれなりに速く、温度を変えた際、0.2秒以内に層間距離の変化が終了します。

質問③ Tomohiro Fukushima

力の釣り合いで極小点があるとの話ですが、常温でこれほど配向がそろっている驚きです。温度をあげるとやはりフォトニック結晶の半値幅など広がってくるのでしょうか?

反射スペクトルの半値幅は、少し温度をあげたくらいではほとんど変化しませんが、60度を超えたあたりから、半値幅が大きくなっていきます。

質問④ ynsktn

ナノシート間の引力について、ファンデルワールス力がそこまで遠くにはたらいて構造を制御するのは驚きです。つり合いで生まれる極小(くぼみ)の、活性化障壁のようなものは考えられるのでしょうか?

ナノシート間距離に基づくポテンシャル曲線において、距離が離れる方向にはポテンシャルの山な存在しないため、別の構造に転位することはありません。一方で、距離が狭まる方向には、ポテンシャルの山が存在し、一旦それを超えてしまうと、ナノシート同士は強く会合してしまいます。とはいえ、このポテンシャルの山は非常に高く、通常の温度・条件で用いている限り、乗り超える事は不可能です。強い遠心分離などにかけると、このポテンシャルの山を超えることが可能となり、ナノシートを沈殿として回収できます。

質問⑤ Sando Shinsuke

素晴らしい講演ありがとうございます。本当に美しい研究ですね。脂質2分子膜が磁場配向する際、構成分子のどの要素が配向力に効いているのでしょうか?細胞を高磁場に置いた際に、細胞膜に何らかの力が働くのかが気になりました。単に、細胞への物質導入などの方法として使えないのかという観点と、現在、14-20T MRIの開発が進められているので人への影響に対する単純な興味です。

山東先生、お忙しいところありがとうございます。
脂質2分子膜の場合、C-H結合が磁場と平行に並びたがるため、2分子膜平面は、磁場と平行になります。一方で、脂質2分子膜中に芳香環を導入し、芳香環の磁場と平行に並びたがる性質を利用することで、2分子膜平面を磁場と垂直にした報告もあります。
「細胞に働きかける手段としての磁場」というのは、大変面白い発想であり、何かが起こる可能性も十分にありうると思います。というのも、ベシクルを強磁場中に置くことにより、もともとは対称だったベシクル球の対称性が崩れることが報告されています。

コメント❸ Makoto YAMASHITA

会議で出遅れましたが追っかけ再生で拝聴しております。

山下先生、お久しぶりです。お忙しいところ、有難うございます。

コメント❹ Sando Shinsuke

ありがとうございました!

大変重要な質問をありがとうございました。我々としても今後、力を入れていきたい部分でありまたディスカッションさせて頂ければ幸いです。

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