2021 Apr. 28 第15回“光”機到来!Qコロキウム

盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!

発表1:相澤 直矢(理化学研究所・研究員)
「理論計算が先導する熱活性遅延蛍光材料の開発」

次世代の有機EL材料として注目さている熱活性遅延蛍光(TADF)材料は、通常発光しない三重項励起状態から発光可能な一重項励起状態への遷移である逆項間交差により、有機ELの内部量子効率を100%まで高めることが可能である。しかし、逆項間交差が遅い場合、デバイスの劣化や高輝度時の量子効率の低下につながるため、より速い逆項間交差を示すTADF材料の開発が求められている。本講演では、逆項間交差の速度定数を予測する理論計算とそれを活用したTADF材料の開発について紹介する。

Youtube チャットコメント一覧:

*チャットコメントに対する先生方からの返答はイタリックで追記しました。

質問① Kiyoshi Miyata

交差シームの計算についての質問です。分子によっては同じようなエネルギー差で交差シームが複数現れるパターンもあると思いますが、その場合はパスが二つ分考慮されるのでしょうか?
今回の計算では考慮できていません。今回の計算は、S1やT1の平衡(最適化)構造の近傍で交差シームのローカルミニマムを探すもので、最も起こりやすいRISCのパスを考慮できるものの、全てのパスを考慮しているわけではありません。

質問② Kiyoshi Miyata

改めて、本当に広範囲の予測精度ですね! 逆に合っていない分子がどのくらいあるのか、合わないときはどのようなパターンなのか、もし傾向があればコメントいただけると幸いです。

ありがとうございます!今回の計算は、TDDFTで励起状態を再現できない分子には適用できないと考えています。例えば、関西学院大学の畠山先生らにより開発されたDABNAでは、S1に2電子励起配置の寄与があるため、TDDFTではESTを過大評価することが知られています(https://doi.org/10.1038/s41467-019-08495-5)。こういった分子では、計算上kRISCが過小評価されるはずです。もちろん、TDDFTでなく別の波動関数理論を交差シームの計算に用いれば、解決可能だと思います。

質問③ 廣瀬崇至(京大化研)

S1とT2の項間交差が早いことが重要という観点ですが、その後のT2からT1への失活速度は計算で定量評価できるのでしょうか?

同じスピン多重度の状態間の交差も計算可能なので、T2からT1への失活速度も計算可能です。いくつかの分子で、T2からT1へはバリアレスで失活できると確認しており、今の所、無視できるほど速いと考えています。

質問④ 松井Y

畠山先生らの報告されているDABNA系の分子はD-A連結分子と違うような気がしているんですが,結局は同じような機構のRISCで説明できるんでしょうか?

TDDFTでは、DABNAでも高次三重項励起状態を介したRISCを示唆する結果を得ていますが、質問②に関連して、違うメカニズムの可能性も考えられます。この問題に関しては、波動関数理論を使った交差シーム計算を検討したいと思っています。

質問⑤ 廣瀬崇至(京大化研)

NTO動画を用いて重原子効果を考察する際に、(1) 単純にLEとCTの異なる状態間での軌道係数の変化が必要なのか、(2) S, Brなどの重原子に由来する電子の軌道係数が大きく関与することが大切なのか、どのように解釈すると適切なのでしょうか?

(1)に加えて(2)も満たす(重原子に由来する電子の軌道係数の寄与がS1とT2で大きく変化する)とスピン-軌道相互作用が大きくなるようです。

質問⑥ Youichi Tsuchiya (OPERA, Kyushu Univ.)

MCzTXTは0.75μsの遅延寿命ですが、ネックはISC速度定数だと思います。ISCを下げる方法はありますでしょうか?

kISCとkRISCの比は、ほとんどESTで決まるため、ESTを小さくするしかないと考えています。

質問⑦ Yoshiteru Shishido

ヘテロ元素の有無とKriscの差という観点はありますでしょうか?またりん光側(3重項側)に全部持っていき、それを活用することはできないのでしょうか?

ほぼ全てのTADF材料には、ヘテロ元素が使われていて、HOMOとLUMOを空間的に分離し、ESTを小さくする役割等を担っています。今回の研究では、高周期のヘテロ元素によりスピン-軌道相互作用を増大させ、高kRISCを狙っています。
Ir(ppy)3等のリン光性イリジウム錯体がまさに仰られるアプローチを体現していて、既に実用化されています。ただし、イリジウム錯体の発光寿命も、TADFと同様にマイクロ秒オーダーに留まっています。

質問⑧ Hiromichi Miyagishi (東大院総合)

新規分子のkriscの予想ができるとのことでしたが、逆に計算からriscが速い構造の予測はできるでしょうか?

はい、機械学習の逆問題を解くことで可能だと思います。もちろん、計算が実験を再現できないとはじまらないので、今回の研究はその基盤になると期待しています。

質問⑨ Yoshiteru Shishido

電子励起と光励起では分子状態の静電ポテンシャルが変化すると思うのですがこれとOLED評価に相関はあるのでしょうか?

OLEDの外部電場は、励起状態へ影響を与えるかということなら、影響はあります。例えば、外部電場により励起子がホールと電子に分離しやすくなりますし、エネルギー準位もシュタルク効果で若干変わるはずです。外部電場以外もOLED評価では、キャリアバランス、周辺材料へのエネルギー移動、多重の光学干渉、電極のプラズモン等など、光励起よりも色々と考慮するパラメーターが多いです。

質問⑩ Masashi Mamada

MCz-TXTのkisc = 10^9くらいとのことですが、kp = 1/tau(prompt) = kr + kiscですので、kiscはkpを超えないはずと思います。promptのdecayを見ると、kpはそこまで大きくなさそうですが、kiscはどのように算出していますか?また、promptとdelayのPLQY比はどのくらいでしょうか?

kpは10^9 s-1程度(寿命では約1 ns)で、kISCよりも高い値です。仰られた式をベースに、promptとdelayed fluorescenceのPLQYの比を使って算出しています。PLQYのうち約99%がdelayed fluorescenceです。

発表2:原野 幸治(東京大学・特任准教授)
「原子分解能電子顕微鏡で解き明かす分子集合の謎」

可視光より波長が短く,原子との相互作用が強い電子線を利用した原子分解能のイメージング装置が電子顕微鏡である.しかし,物質との強すぎる相互作用による試料損傷が問題となり,分子性材料,特に分子集合体の観察への応用が困難であった.我々は分子ひとつひとつを孤立して担持する試料調製手法によりダメージを抑え,分子の動的挙動を原子分解能動画で捉え,解析する技術を確立した.この手法により分子およびその集合体のダイナミクスを直接解析できるだけでなく,多数の分子についての動画像の統計解析から速度論,熱力学解析を行うことも可能となった.本講演では様々な材料形成における分子集合機構の解明にフォーカスし,最新の研究成果を紹介する.

Youtube チャットコメント一覧:

質問① 今田裕(理研)

電子顕微鏡の詳細をもう少し教えていただけますでしょうか。(加速電圧メーカーなど)

質問② 今田裕(理研)

球面収差補正は単一分子観察には有効なのでしょうか?

質問③Kiyoshi Miyata

電子線を照射すると試料温度が上昇しそうですが、測定系の温度はどのくらい制御できていると捉えればよいでしょうか?

質問④ Kiyoshi Miyata

本当に圧倒される電子顕微像のオンパレードなんですが、技術的なブレークスルーがいくつもあったのではないかと推察します。特に大きかった技術的なブレークスルーは何だったのでしょうか?

質問⑤ 廣瀬崇至(京大化研)

NaCl, ポルフィリンなどの有機分子、MOF、シクロデキストリンなど、超分子構造の核生成・結晶成長が起こる過程で、モノマーに相当する原子・分子は、電顕観察条件下でどこからどのように供給されるのでしょうか?

質問⑥ Yoshiteru Shishido

クラウンエーテルなんかがRimbinding をしてそうなイメージがあります。このバインディングの仕方で反応性はどう変化するかという議論はされていますでしょうか?

質問⑦ 廣瀬崇至(京大化研)

シクロデキストリンのcavity/rim bindingの熱力学パラメーターについて、高真空の電顕条件下で求めた数値と溶媒和可能な溶液中で求めた数値では、どの程度の類似点・相違点が見られるのでしょうか?

質問⑧ Hiromichi Miyagishi (東大院総合)

シミュレーションがどのくらい正しそうかというのはなにかのパラメータで評価できるんでしょうか?

質問⑨ Hiromichi Miyagishi (東大院総合)

シクロデキストリンを釣り針にしたイメージングはできますでしょうか?

質問⑩ Youichi Tsuchiya (OPERA, Kyushu Univ.)

グラフェン上でポリアロマティックな化合物を乗せると平面で付きそうですが、グラフェンに対して立っている理由は何でしょうか?

質問⑪ 廣瀬崇至(京大化研)

マラカス様の並進運動の駆動力が気になりました。周期的に運動するCNTからの力学エネルギーが伝わっているものなのか、もしくは、CNTが構造変化することによるポテンシャル曲面の変化が寄与しているのか、何が主な駆動力と考えられるのでしょうか?

質問⑫ Yoshiteru Shishido

MOFでも同じだとは思うのですが、理論的に提唱されている反応というものをチューブを試験管として見立てた状態で撮影はできるのでしょうか?

質問⑬ Yoshiteru Shishido

また話は逸れてしまいますが原野先生の考える顕微鏡の限界(大きさ、時間の分解など、)はどのようなものだと考えていますか?

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