2020 Sep. 7 第6回“光”機到来!Qコロキウム

盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!

発表1:小林 洋一(立命館大・准教授)
“フォトクロミズム”と”時間分解分光”をキーワードとした新奇光機能材料の開拓

“フォトクロミズム”を示す材料は、光照射によって着色、発光、屈折率、極性、化学反応特性など、さまざまな物性、機能が可逆的に変化することから、多岐にわたる分野で光スイッチとして活用されています。また、”時間分解分光”とは、短い時間スケールに生成する光生成物を分析する分光手法のことをいいます。”フォトクロミズム”は現象を五感で感じられる面白さがある一方、”時間分解分光”は眼では見えない現象をスペクトルによってあぶり出すワクワク感があり、どちらも甲乙つけがたい魅力があります。本講演では、この二つをキーワードとして、新奇光機能材料開発を試みた近年の成果について紹介します。

Youtube チャットコメント一覧:

*チャットコメントに対する先生方からの返答はイタリックで追記しました。

コメント❶ 松井Y

私もこの本買いました!

ありがとうございます!!

質問① Kiyoshi Miyata

TRIRで基底状態の振動はあまりスペクトル形状に影響与えませんか?ブリーチングがあまり見えてないようなので気になりました。

イミダゾール環のCN伸縮振動は強く観測され、基底状態でこの振動は二重結合的なため、高波数側に観測されます。ラジカルの生成に伴って大幅に低波数シフトし、1250-1400 cm-1にイミダゾリルラジカルに由来する強い吸収が観測されます。1250-1400 cm-1の閉環体のIR吸収はイミダゾリルラジカルのCN伸縮振動と比べて弱いため、今回主に正のシグナルとして現れたと考えています。お見せしていませんが、1470 cm-1付近にはブリーチが観測されています。

質問② Yosuke Tani

構造緩和を遅くするとCT状態の寿命が長くなったとのことですが、励起状態の構造緩和は平面化=共役系を伸ばす方向に向かうのでしょうか?

ここで、励起状態(厳密には電子励起状態)はどこなのか?というのが非常に難しい問題となります。僕らの解釈では、S1のポテンシャルエネルギー曲面(PES)は励起状態、CT、およびビラジカルのPESは基底状態のPESと考えています。遷移直後の基底状態は最安定構造からかけ離れており、各電子状態の最安定構造へ向かう方向へと構造緩和すると考えられます。つまり、ビラジカルのイミダゾリルラジカルとフェノチアジンラジカルの相対的な角度が90度から小さくなるのは、立体反発を最小限にし、基底状態の最安定構造へと緩和するためと考えています。

質問③ Yusuke ISHIGAKI

CT状態の寿命はフェノチアジンのドナー性とイミダゾールのアクセプター性で議論できるようにも思いますが、CV測定による酸化還元特性などで評価されたことはあるでしょうか?

CV測定からイミダゾール環(アクセプター)の還元電位、フェノチアジン(ドナー)の酸化電位を算出し、そこからS1に対するCT状態のエネルギー的な安定性を評価しています。その結果、従来のホモリシスを起こす化合物ではΔGが正なのに対し、本化合物ではΔGが負となり、CTが相対的に安定であることを明らかにしています。これらの化合物がなぜヘテロリシスが起こるかの1つの要因と考えています。

質問④ 松井Y

無機ナノ粒子のフォトクロ減衰解析,エクスポネンシャルでいいんですか?

厳密にはよくないです。実際この系では、電荷の再結合過程で消色すると考えており、二分子反応でフィットする必要があります。このモデルだと時間の初期はあいますが、長い時間で見るとずれが見られます。ずれの要因が明確でなかったことから、今回は系式的に指数関数の和で解析しました

質問⑤ Kiyoshi Miyata

TR-ESRいいですね! 帰属はどのような手順でやられているんでしょうか?

消色速度が数十秒から分単位と長いため、ESRは実はCWで行っています。測定、解析は神戸大の小堀先生にお願いしているのですが、わかる範囲でお答えすると、x,y,zのg値や超微細構造定数などをフィッティングによって求め、それらの値をZnSバルクやナノ結晶(欠陥)や、Cu, Sの部分構造のESRシグナルの先行研究と比較することにより、電荷、電子分布、ホッピング時定数などを求めています。

質問⑥ Kiyoshi Miyata

ナノ粒子内でのホッピングと粒子間のホッピングは区別できるのでしょうか?

非常に鋭いです。ホッピングの時定数と実際に見られている超長寿命の電荷分離を鑑みると、粒子間をホッピングしていると言わざるを得ないといったアサインです。いろいろ解析を行った結果、どうもCuの正孔は深くトラップしており、動いていないのではないかということもわかってきました(動画での解釈とはすこし異なっています)。

質問⑦ Takashi Hirose

Cuドープのナノ粒子のフォトクロミック挙動について、(1) Cuドープ量依存性 と (2) 粒径依存性 が気になります。

(1)ドープ量は増やすほど着色は濃くなりますが、5%以上では光照射せずとも茶色になってしまいます。ESRの結果から、XRDでは観測できない程度のCuxSドメインがいることが分かっています。5%以上ではフォトクロミック反応がほとんど観測できないことから、このドメインが反応を阻害しているのではと考えています。より濃い発色を実現するためには、よりCuを高濃度且つ均一にZnSナノ結晶に分布させる必要があり、化学の力でこの課題を達成できればと考えています。
(2)バッチ、水分依存性などもあり、粒径依存性はまだしっかりとできていません。しかし、この反応はナノ界面に依存しているので粒径が大きいほど反応しづらくなるのではと考えています。今後検討します。

質問⑧ Takashi Hirose

前半の内容で、励起直後にCT状態を経由するフォトクロミック分子と、CT状態を経由しないフォトクロミック分子を比較すると、フォトクロミック特性にどのような特徴の違いがありますか?(A) 過渡分光を行わなければCT状態の存在が検出されないほど特殊なものなのか、(B) CT状態を経由するフォトクロミック分子ならではの光応答挙動の特徴がでてくるのか、どちらでしょうか。CT状態を経由するフォトクロミック分子の重要性が知りたいです。

現状(A)であり、ほぼ影響はありません。しかし、CT状態を長寿命化できれば、それに伴った反応性や物性の違いが出てくると期待しています。これらのCT性過渡種を使った有機光触媒や光誘起凝集などはすぐに思いつく展開ですが、それ以外に双極子モーメントが大きく変化する系を使って、屈折率の高速変調などもできないかと妄想しています。今後頑張って調べていきたいと思います。

発表2:吉田 巧(St Andrews大・博士研究員)
1 Gpsの高速可視光通信が可能な有機ELの実現
―有機ELは発光材料よりも速く変調できるのか?―

有機ELは有機化合物からなる発光デバイスであり、高い発光性、様々な基板上に作製可能であること、機械的な柔軟性といった特徴から、折りたためるスマートフォンやテレビなどに使用されている。しかしながら、その駆動速度は一般的には遅いと考えられておりその応用の範囲は限られていた。本講演では我々が最近開発した高速での輝度変調が可能な有機ELとその可視光通信への応用について有機ELの作製方法や光通信の基礎的は話を交えながら紹介する。

Youtube チャットコメント一覧:

質問① Kiyoshi Miyata

基本的な質問で恐縮ですが、通信レートが通信距離によって落ちるのはなぜですか?

距離が遠くなると、光が拡散し強度が減少するためです。

質問② Takashi Hirose

VLCは、可視光を用いた赤外線通信のようなもの、と考えると良いのでしょうか?VLCの信号受信は、アンテナというよりは光検出器を用いるのでしょうか?

そうです。リモコンみたいな感じです。検出器もアンテナというよりも光検出器です。実際の測定ではフォトダイオードを使いました

質問③ Yosuke Tani

イントロでは波長帯をTHz(高周波数)とおっしゃっていたように思ったのですが、発光強度のON-OFFによって信号を伝えるのでしょうか? 高周波数であるほど情報密度が高い、というのは、強度ではなく波長変化などに対応すると思っていましたが少し混乱しています。

そうです。発光強度のON-OFFによって信号を伝えます。も少し複雑な方法では単純なON-OFFではなく強度を細かく変化させます。

質問④ Kiyoshi Miyata

間違いを補正できるミス率の根拠はどんな理由が背後にあるのでしょうか?

具体的になぜ間違いの割合が3.8E-3だと間違いを修正できるのかは私も不勉強でわかりません。私の理解の限りですと、自分の送りたい情報を少し変換しなんらかのルールに従った形で送信しているようです。このため、少し余分に(7%分)情報をおくることになり通信速度が遅くなります。受けとった側は送られてきた情報がルールに従ったがっているかを調べます。ルールに従っているとそのまま情報を受け取りまります。そうでなければ、それをエラーとして検出し修正を行います。この際ルールにある情報とエラーの情報の類似性を比較してもともとの情報がなんであったのかを推測し修正を行います。おそらく間違いの割合が3.8E-3というのは、類似性の推測がかなり高精度で行えるぐらいのエラーの少なさというのを数学的計算した結果の割合だと思います。

質問⑤ Daiki Yamashita

通信量の向上のための別アプローチとして波長多重化もあると思うのですが,こちらのOLEDはどれぐらいの発光線幅でしょうか?また発光波長の異なるOLEDを作成して同一基板上にアレイ化することもできるでしょうか?

半値幅で50nm程でしょうか。発光波長の異なるOLEDを作成して同一基板上にアレイ化することもできます。スマートフォンのディスプレーがまさにいい例です。

質問⑥ Takashi Hirose

18ページ目のスライドで、8V付近以上から通信速度向上の傾きが異なっているように見えました。8V前後でOLED挙動に何か大きな変化が生じるのでしょうか?

L-OLEDの通信速度の話だと想像します。最後の電圧で入力信号の強度を増加させため速度が急上昇したのだとと思います。

質問⑦ Kiyoshi Miyata

聞き逃しているかもしれませんが、無機の光通信と比較してどのあたりのところまで来ているという印象でしょうか?

無機のLEDでは最近10Gbpsを実現したようですので現状の通信速度では10倍ぐらいおそいです。

質問⑧ KOBAYASHI YOICHI

高い発光量子収率を維持しつつ、蛍光寿命を短くするには輻射の速度定数を増加させることかと思うのですが、プラズモン共鳴などで輻射の速度定数を増加させた材料などはあったりするのでしょうか?一般論でよいので教えていただけますと幸いです。

金ナノ粒子を電荷輸送材料に混ぜて発光材料の輻射の速度定数を増加させるということがなされています。

質問⑨ Takashi Hirose

宮田さんと同じポイントを疑問に思いました。既存の光情報通信との差別化について、どのように理解すればよいでしょうか?

既存の光通信といいますと光ファイバでの通信の話かと思います。光ファイバーの場合、線でつなぐ必要があり固定された機械同士の通信になります。一方で可視光通信は無線通信ですので線をつなぐ必要がありません。光を使ったWifiのようなイメージですので、スマートフォンやタブレットなど動かすことが出来る装置の通信に使用します。
無機と有機のLEDの差別化については、有機LEDの特徴である大面積(小さな素子を大きな平面上にたくさん並べる)かつ安価での素子作製や発光波長の異なるOLEDを作製して同一基板上にアレイ化というのは可視光通信ではかなりアドバンテージになると思っています。高速かつ快適な通信が来ますのでこのような点で差別化できないかと考えています。

質問⑩ Yusuke ISHIGAKI

BDAVBiにはスチルベンユニットが含まれているので、耐久性に問題が出てくるようにも思いますが、その点に関してはどのようにクリアできるでしょうか?

スチルベンの二重結合の部分をフランで架橋することで光安定性が向上するとの報告がありますので、そのような手法により耐久性が向上できるかもしれません。

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