2020 Oct. 16 第7回“光”機到来!Qコロキウム
盛会のうちに幕を閉じました。ご参加ありがとうございました!
発表1:石垣 侑祐(北大院理・助教)
光による分子構造制御と新奇応答機能
共有結合は,有機化合物を構成する最も基本的な要素であり,その長さや二つの結合が成す角度は基本的に決まった値をとる。一方,嵩高い置換基が複数連結した高歪化合物において,標準値から逸脱した構造及びパラメータをとる場合も知られている。我々は,そのような高歪化合物に着目し,光などの外部刺激によって分子構造を制御することで,結合の伸縮過程の可視化及び酸化特性のオン/オフスイッチングを実現した。本発表ではこれらの詳細を紹介する。
Youtube チャットコメント一覧:
*チャットコメントに対する先生方からの返答はイタリックで追記しました。
質問① Kiyoshi Miyata
単純な質問で恐縮ですが、モノカチオン種はできないんでしょうか?
今回ご紹介した分子は基本的に二電子酸化がほぼ同時に進行する系となっています。そのため、モノカチオン種(カチオンラジカル)は一瞬生成しているものの、単離することや系中で観測することはなかなか難しいです。(分子次第では可能と考えています。)
質問② Kiyoshi Miyata
熱的に発生するジラジカルと他の分子との反応に関しては観測されているのでしょうか?
今回の検討では、酸化剤との反応について観測しています。ヨウ素のような比較的弱い酸化剤を用いた場合でも、熱的に生じたジラジカルが優先的に酸化されることで、ジカチオン種を定量的に取り出すことができています。その他の反応につきましては、今後検討したいと考えています。
質問④ Kiyoshi Miyata
すごい! ラマンの帰属の詳細も気になります。
ラマンスペクトルの帰属についてはDFT計算により行っています。これまでに検討したところ、伸縮振動を再現するにはB3LYP/6-31G*が良いということがわかっています。C-C対称伸縮の振幅が大きいところ、かつ強く観測されているところで判断しています。
コメント❶ Makoto Yamashita
長いだけで素晴らしい!!(笑)
有難うございます!さらに長い結合の創出にもチャレンジ中です!
コメント❷ Kiyoshi Miyata
同感です!笑
有難うございます!
質問⑤ Yosuke Tani
非常に長い単結合、かなり特異な構造と思いますが、量子化学計算では、計算レベルに関して何か特徴的な依存性を示したりするnoでしょうか?
計算により得られた結合長が1.75 Åを超えたあたりから、分散力を加味した場合にその影響をより強く受けているような結果が得られています。1.8 Åを超える結合に関してはまだ例が限られていることから、その領域まで伸長した結合を持つ分子を複数構築し、実験と計算結果を照らし合わせながら検討していきたいと考えています。
質問⑥ Kiyoshi Miyata
機械的刺激での異性化は生じたりしませんでしょうか?
今回の分子に関して乳鉢で磨り潰すくらいでは異性化の進行は観測されませんでした。一方で、そのような分子を構築できれば非常に面白いと考えていますので、現在分子設計を含めて検討しているところです。
質問⑦ Yosuke Tani
SC-SC相転移でも開環体で非対称にジベンゾヘプタトリエンが傾いているのは面白いですね! 不思議です……
その通りですね。質問有難うございます。メカニズムについても、もう少し考えてみたいと思います。
質問⑧ 小西 彬仁
お疲れ様です。
1つめのトピックス:SA体のHOMOが高い理由は、構造のどこに起因していますか?
様々なレベルでDFT計算を行いましたが、すべてにおいてSA体の方がHOMO準位は低く見積もられています。従って、現時点ではSA体の大きな歪みが効いていると考えているところです。今後、より詳細に明らかにしたい部分です。
2めのトピックス:溶液中で、開殻体とfolded体の平衡は速やかに達成されますか?
開殻種の寄与はかなり小さいのですが、室温でのサイクリックボルタンメトリー測定ではそちらの構造に由来した酸化波しか観測されないことから、非常に速いと考えられます
3つめのトピックス:閉環体のHOMOは切れる箇所に余り乗っていないように感じますが、切れる機構に関する知見はありますか?
骨格から一電子抜けてカチオンラジカルが生じた際に、長い結合の部分が切れたカチオンラジカルが比較的速やかに生じると考えられます。一旦結合が切れてしまえば、続く酸化は速やかに進行するので、結合から二電子がほぼ同時に抜けているように見えている、ということです。
質問⑨ Yoichi Sasaki
一つ目のジカチオン種のお話で、カチオン炭素とアントラセンの9,10位の結合長はどの程度なのでしょうか?
電子密度の高いアントラセンの9,10位にカチオン炭素が隣接しているような構造になっており、気になっています。
SbCl6塩の結晶構造解析では1.505(5) Åでした。BF4塩でも1.508(5) Åとなっており、B3LYP/6-31G*レベルでの計算結果では1.520 Åということで、いずれの場合にも標準的な単結合の値となっています。
質問⑩ Nobuhiro Yanai
長い結合が出来るメカニズムのところで、分子内コアーシェル構造と超結合のもう少し詳しいお話を伺いたいです。
この点についてはぜひ我々のプレスリリースをご覧いただけたらと思います。
分子内コア-シェル構造と超結合
結合は長いだけではなかった!
発表2:アルブレヒト建(九大先導研・准教授)
カルバゾールデンドリマーを基盤とした光・電子機能材料
カルバゾールをHead-to-Tail型に結合したカルバゾールデンドリマーやオリゴマーは全体として分極した特異な電子構造を有している。これを利用して塗布型熱活性化遅延蛍光材料や分子ダイオードとして機能することを実証したので報告する。また、一般的には結晶化しにくいと言われているデンドリマーが結晶化し、多孔性を持つ外部刺激応答性材料やレーザー材料として機能することも近年見出しているので紹介する。
Youtube チャットコメント一覧:
質問① Makoto Yamashita
カルバゾールデンドリマーの実際の電子密度分布はどれくらい違うのでしょうか?双極子モーメントは15Dで結構大きいですが、分子サイズによるところも大きそうなので、実際の電荷の偏りがわかれば教えて下さい。
しっかりとした計算の結果が無いので、電荷で定量的に答えることは出来ないのですが例えば最外層と最内層の酸化電位(HOMO)であればNMRのケミカルシフトやHOMO準位の見積もりから大きくて0.2 eVぐらいだと考えています。また、NMRのケミカルシフトからカルバゾールデンドロンの置換基効果を見積もるとG3デンドロンは塩素か臭素が置換するぐらいの置換基効果(主に誘起効果)を持っていると見積もられます。
質問② Yosuke Tani
ニートのデンドリマー薄膜でみられた濃度消光というのは、実際にはどういう原因だったのでしょうか?
実際には何かというのは難しい所があります。というのもデンドリマーは球形ではなくニートフィルムの状態では発光中心だと考えられるコア付近のCT状態が完全に隔離されておらず、他の分子の接近や相互作用が存在すると考えられるからです。曖昧な言葉ですがこういった相互作用を通じた失活パスが考えられると思います。
これに加えて高世代ほどPLQYが下がる現象については励起状態の寿命が効いていると思っています。例えばカルバゾール-トリアジンデンドリマーは2-4世代はいずれも溶液中では100%に近いPLQYを示しますが高世代ほど寿命が長くなっています。これは高世代ほどホールがコアのトリアジンから遠いところまで運ばれて(広がって)再結合に時間がかかるのだと思います。同じ失活パスしかないとしても励起寿命の長い高世代ほど無輻射失活に速度論的に負けてPLQYが低下すると考えられます。
質問③ Shinsuke SEGAWA
めちゃくちゃな事を言っているかもしれませんが、デンドリマーにする事で励起軌道がバンド化してEstが下がりRISCが促進されることはありますでしょうか?
置換数を変化させた実験は行っていないので分かりませんが、他のグループの例を見る限り三重項の中で軌道が縮退したような準位が出来て逆項間交差が促進されている可能性はあると思います。
質問④ Kiyoshi Miyata
OLEDにしたときのキャリアバランスに興味があります。カルバゾールが周りにいるので、electronは入りにくそうにも思えるのですがそこは問題になりませんでしょうか?
測定する限り電子輸送性の方がホール輸送よりも低いのは間違いないと思われますし、注入の所も空間的なこともあって少しバリアーがあるのかもしれません(再結合領域は電子輸送層に近い可能性が高い)。実際に塗布型デバイスで蒸着に比べて特性が上がるのはデンドリマーが少しだけ溶けて電子輸送材料と混合するためだと考えています。
質問⑤ Tatsuya Mori
末端の置換基で結構特性が変わるのはどういう理由が考えられますか?とくにメトキシだけ割と外れた傾向を示している感じがするのですが何か理由はありますか?
メトキシ基は強い電子供与基なので発光波長を長波長側にシフトします。固体での量子収率についてはどういった置換基がいいのかは正直な所わからないことが多く、メトキシ基の効果は分かりません。傾向としては嵩高い置換基のほうがニート膜のPLQYが高くなるというのはあると思います。
質問⑥ Kiyoshi Miyata
中野谷先生の昨年のNat Commの論文の議論を踏まえると、光励起したときに内部電界で電荷分離するんでしょうか。大変興味あります。
↑Nat Comm 10 5748 (2019)です
可能性はあると思います。ただ、今の構造では電子はコアにトラップされた状態になるでしょうし、全体として対称系なので長距離に電荷分離させられるかは分かりません
質問⑦ Shinsuke SEGAWA
デンドリマーは何世代まで伸長できるのでしょうか。また分子量と物性の関係を教えていただきたいです。
PAMAM(ポリアミドアミン)などの一部のデンドリマーは10世代なども報告されています。但し、純度は完璧ではないことが多いと思います。カルバゾールに限れば報告されているのは4世代まで、フェニルアゾメチンというデンドリマーだと5世代などです。剛直なデンドリマーは末端が混み合ってくるのでこの辺が限界なのかもしれません。カルバゾールについては3世代まででスペクトルの長波長シフト(共役の伸長)が止まってしまうのでそれ以上の高世代化をしても物性面での違いがあまり出てこないこともあって(合成が大変なのもそうですが)高世代化は熱心には追求されていないです。
質問⑧ Yosuke Tani
結晶なるの驚きです。分子間相互作用はどうなっているのでしょうか? (外側のカルバゾールはかみ合ったパッキングになっている?)
結晶によって異なりますがG3TAZのポーラス結晶では末端だけでなく色々な所が絡み合って相互作用しているようになっています。エントロピーの損を無理やりエンタルピーで補完しているのかもしれません。他の結晶については溶媒などが入っていることもあり、そこまで相互作用が大きくは無さそうです(CH-π的なものは多そう)。どうしても一箇所を(πスタック)重ねようとすると他に無理が来るのでそういったパッキングにならないようです。それで結晶になるのは驚きです。
コメント❶ Makoto Yamashita
Π造形コラボ素晴らしいですね。
π造形から多くの共同研究が広がりました。
コメント❷ Kiyoshi Miyata
谷先生との濃度消光の質問に関するやりとり そうなってくると発光減衰がexponentialじゃなくなってきそうですね。
分子によりますが確かに1成分ではフィッティング出来ないことが多いです。
質問⑨ Tomoyuki Hamachi
世代数とポテンシャル勾配の大きさはどのような関数になりますか?
ポリマーの有効共役長のようなイメージで、高世代化していくと真ん中はだんだん層ごとの区別がつかなくなっていくと思います。末端同士の勾配(エネルギー差)もどこかでつかなくなると思います。実際にフェニルアゾメチンデンドリマーでは5世代になると中層のエネルギー準位差がかなり小さくなっているような挙動が見られています。
質問⑩ Yoichi Sasaki
励起状態に対する溶媒和の影響はデンドリマー化によって変わりますでしょうか?
あまり多くのデンドリマーで測ってはいませんがカルバゾール-ベンゾフェノン系では第2世代から第4世代まででLippert-Matagaプロットの傾きやソルバトクロミズムはほとんど変わりません。ただ、発光はあくまでアクセプター近傍にホールがいる時の再結合を見ているので高世代で長距離に電荷分離したときには溶媒効果は変化が見られるかもしれません。
質問⑪ Nakanotani Hajime
Czデンドリマー結晶にアクセプター性分子を暴露すると、exciplexを作りますかね?
ポーラスな結晶にTCNE加えて封管中で加熱したときには電荷移動錯体由来と思われる色変化は見られたので、アクセプターが入る余地があれば可能性はあると思います。