2020 Jun. 18 第2回“光”機到来!Qコロキウム

発表1:草本 哲郎(分子研・准教授)
安定ラジカルが示す発光機能

草本グループは、不対電子を有する分子=ラジカルや磁性金属錯体の新物質開拓を基に、ユニークな物性・現象の創出とそのメカニズム解明を通して、物性科学に新しい研究領域や概念を創出することを夢見て研究を進めています。最近は特にラジカルの発光機能開拓に注力しています。ラジカルは短寿命で不安定な化学種、あるいは発光を阻害する物質=quencherとして知られ、その発光特性は十分には調査されていませんでした。我々は高い安定性と発光特性を兼ね備えたラジカルを開発し、その二重項あるいは多重項に基づく発光特性の解明を進めています。ここ2年ほどでやっと、「ラジカルならでは」の発光機能や励起状態特性が明らかになってきました。

Youtube チャットコメント一覧:

*宮田からの返答はイタリックで追記しました。

質問① Makoto YAMASHITA​

錯形成で発光特性が向上するのはd0,d10に限るもの?d電子が違う数の系についてはどれくらいあるのでしょうか?

今のところ、d⁰あるいはd¹0でのみ確認できています。それ以外のd電子数のイオンでも試しているのですが(検討の一部はChem. Commun. 2018, 54, 615 のSIに掲載しています)、磁性金属イオンをいれると消光する(あるいは発光が弱くなる)ばかりで、発光特性が向上するという結果は得られていません。

質問② Nakamura Takashi

ありがとうございました。Cu2+のような常磁性のイオンと錯形成しても光りますか?配位子の不対電子とどう相互作用しますか?

質問①の答えに関連しますが、常磁性イオンとの錯形成により発光する結果は今のところ得られておりません。これまでの研究から、PyBTMとCuII, MnII,などの磁性金属イオン間には有効な交換相互作用が働くという結果が得られています(Inorg. Chem. 2015, 54, 4186, Chem. Lett. 2016, 45, 1057.)。前者は強磁性的、後者は反強磁性的な相互作用が働きますが、これらはラジカルのスピン軌道と金属イオンのスピン軌道の直交/重なりで理解できます。関連して、同じ磁性金属イオンを用いた場合でも、配位の仕方や金属イオン回りの配位環境が変われば、ラジカルー金属イオン間の交換相互作用の強さや様式(強磁性的or反強磁性的)は変化します。

質問③ Takashi Hirose​​

D1 -> D0発光過程について、酸素による消光の影響は、通常のS1 -> S0発光過程の場合と比べて、何か本質的な違いはあるのでしょうか?

質問④ 田代啓悟

ラジカル発光における酸素の影響はありますか?

酸素による消光を「励起状態にある分子Aと基底三重項の酸素から、基底状態にある分子Aと励起一重項の酸素が生成する」と考えます。
分子Aが閉殻でS1 -> S0の場合、Singlet+Triplet(S_total=1) → Singlet+Singlet (S_total=0)となり、スピン角運動量が保存されないので禁制です。
分子Aが開殻でD1 -> D0の場合、Doublet+Triplet (S_total=1/2 or 3/2) → Doublet+Singlet (S_total=1/2)となり、スピン角運動量が保存されて許容となるパスがあります。
これが本質的な違いと考えています。
一方で、PyBTMの溶液に酸素バブリングした場合、バブリング前後でその発光特性(スペクトル、寿命、量子収率)は変化しない(すなわち酸素により消光されない)という実験結果も得られています。これは励起状態にあるPyBTMの寿命が短いため、溶液中で酸素と出会い、反応する前に、基底状態に戻るからだと考えています。

質問⑤ Makoto YAMASHITA​​

PyBTMのドープ結晶はdisorderとして解析可能なのでしょうか?中性分子とラジカルでは中心炭素の混成が違って構造がえらく変わりそうな気がします。

我々は5%ドープ体の単結晶X線構造解析を行ったことがありますが、disorderとして解析できるようなデータではありませんでした。より高いdope量の単結晶試料であれば、disorderとしてPyBTMが見えてくるのかもしれません。
ご指摘の通り、PyBTMラジカルとその前駆体であるaH-PyBTM(トリアリールメタン)の中心炭素は、前者はsp2的ですが後者はsp3で、構造が異なっています。両者の結晶中における分子構造は、単結晶X線回折実験により明らかにしています。

質問⑥ takumi aizawa

励起状態でラジカル電子の位置はどこにありますか

電子配置の観点からお答えします。ここでいう励起状態が最低励起状態であり、また簡単のため基底状態の電子配置から一電子励起した電子配置として書けると仮定すると、SOMOの一つ下の軌道(NHOMO)のβ電子が、SOMOの開いている軌道(β軌道)に遷移したような電子配置が、最低励起状態となります。ラジカル電子の位置はNHOMOのα軌道になります。一方、スピン密度の空間分布という点で言うと、励起状態は基底状態のスピン密度分布と同様、中心の炭素原子のみならず3つの芳香族環上にまで非局在しています。

質問⑦ Ken Albrecht

TTMラジカルの分解はどういった反応なのでしょうか?防ぐ分子設計は?

TTMラジカルの分解過程の一つは、塩素原子の脱離に続く炭素結合形成であると報告されています(M. A. Fox, E. Gaillard, C. chung Chen, J. Am. Chem. Soc. 1987, 109, 7088-7094.)。防ぐための分子設計としては主に二つが知られていて、一つは我々が進 めている、トリアリールメチル骨格へのピリジン環の導入という設計であり、もう一つは電子ドナー骨格をラジカル骨格に共役連結し、ドナーアクセプター型ラジカルとする設計です

質問⑧ Yosuke Tani

ラジカルをトリアリールメタンにドープしていますが、PMMAなどにドープしてアモルファス状態にしたら物性はどのように変わりますか? 結晶の異方性が重要なのでしょうか(スライド16~20)
すみません、勘違いしてますかね。光っているのはトリアリールメタンでしょうか。。

光っているのはトリアリールメタン(担体)ではなくPyBTMラジカルの方です。
ラジカルをPMMAにドープした場合もmagnetoluminescence挙動が観測できます。この現象のメカニズムは、担体としてトリアリールメタン結晶を用いた場合もPMMAを用いた場合も、同じであると考えています。一方で、PMMAを用いた場合は、トリアリールメタン結晶を用いた場合に比べ、発光スペクトルはブロードになり、またエキシマ―発光とモノマー発光の強度比のドープ濃度依存性が異なってきます。

質問⑨ Ken Albrecht

発光するラジカルの設計指針はありますか?知られているTTMラジカルやジチアジアゾリルラジカルはかなり構造が違うように思いますが共通点はありますか?

質問⑩ Yoshihiro Miyake

トリアリールラジカルは安定に合成できると思うのですが、発光のために必要な構造は何ですか?

発光性を示す安定ラジカルの設計指針としては、トリアリールメチルラジカル骨格を用いる事でしょうか。これまでのところ、発光性を示す安定ラジカルのほとんど全てはトリアリールメチルラジカル骨格を有しています。また、電子ドナー性部位を共役連結してドナーアクセプター型ラジカルとするとより高い発光量子収率を示すラジカルが得られることが知られています。最近では高い発光性を示すラジカルの設計指針も報告され始めています(Abdurahman, A., Hele, T.J.H., Gu, Q. et al. Nat. Mater. (2020) doi: 10.1038/s41563-020-0705-9 . )。
発光性のジチアジアゾリルラジカルの場合は、ラジカルに連結された発光団(ピレンやアントラセン)が発光源となり、ラジカルはそれを失活させている、と見ています。TTMラジカルはそれ自身が発光する一方で、ジチアジアゾリルラジカルはそれ自身が有効な発光を示すという報告を私は見たことが無いので、両者は一概に比較できないように思います。

質問⑪ Yoichi Kobayashi

イミダゾリルラジカルやフェノキシルラジカルの励起状態は一般に超高速な無輻射失活過程が起こるかと思いますが、この分子系の無輻射失活過程が小さい理由はわかりますでしょうか?

分子がrigidであるため、基底状態および励起状態のポテンシャルエネルギー曲面が急峻であること、また無輻射失活として内部転換が主因でありこれ以外の寄与が小さいことが理由ではないかと考えています。

質問⑫ Takashi Hirose​​

他のラジカル分子とは対照的に、PyBTMラジカルから発光が観測される理由は、knrが小さいからでしょうか?それとも、kfが大きいから(振動子強度が大きいから)でしょうか?どのように理解するとより適切でしょうか?

k_nrが小さいと考えるのが妥当と思います。質問⑪にも記載があるのですが、ラジカルは一般に無輻射失活がとても速い物質として知られています。

質問⑬ K Harano​

​ハニカム構造すごいですね,どのくらいのサイズで欠陥のない構造が作れているのでしょうか

ありがとうございます。どのくらいのサイズで欠陥のない構造がつくれているのか、というのは現在調べられていません。現状では、単結晶X線回折により試料の三次元構造の周期性や対称性を明らかにした、という段階です。今後、二次元錯体を単層あるいは数原子層までダウンサイジングした試料の物性を調べる際は、欠陥の有無や数が物性に大きな影響を与えるでしょうから、大面積で欠陥が少ない構造を形成する手法を確立することが今後の研究展開のために重要であると考えています。

質問⑭ Makoto YAMASHITA

ハニカム構造の空隙には何が入っているのでしょうか?

空隙には水分子が入っていると考えています。またESR測定からは酸素分子が入っている可能性も指摘されています。

質問⑮ chem ch

​金属が配位しても消光しないラジカルを生成できたのは、これまでの金属配位ラジカルとどこが違うんですか?

これまでの報告例と我々のラジカル配位金属錯体の違いの一つは、我々はd10あるいはd0電子系の非磁性金属イオンを用いている一方で、これまでの報告例では金属イオンとしてCu2+などの常磁性遷移金属イオンやランタノイドイオンが用いられている点にあります。我々の系では、金属イオン中心の励起状態(d-d励起状態など)への励起エネルギー移動を実効的に無くすことで、発光性を保つことができたと考えています。その他、金属イオンへの配位結合様式がこれまでのラジカル(カルボン酸基やスルホン酸基)とPyBTM(ピリジル基)で異なりますが、前者の結合様式では無輻射失活が促進されてしまい、結果として発光性を失ったのではないかと考えています。

質問⑯ Hiroki Otsuka

ルイス酸配位体や金属錯体について、ラジカル単体と比べて電子状態にどのような変化があるか、それが磁気特性や発光特性の変化と相関が見られるかが気になりました。

電子状態に与える影響についてですが、ルイス酸や金属イオンが配位すると、βSOMOのエネルギーが下がることが分かっています(Chem. Eur. J. 2016, 22, 17725)。このエネルギー準位は電気化学特性や発光特性に強く関わる軌道です。配位の結果、分子の還元電位は正側にシフトします(電子密度が下がる=電子アクセプター性が増す)。また最低励起状態形成のための電子吸収帯ならびに分子の発光帯は、低エネルギー側にシフトします。磁気特性に関しては、ラジカルのスピン軌道と金属イオンのスピン軌道の重なり/直交で理解できています。すなわちスピン軌道同士の重なりが大きいと反強磁性的な相互作用が支配的になり、直交すると強磁性的な相互作用が働きます。

質問⑰ Kurashige​​

エキシマー形成で波長が大きくシフトしていますが、分子同士はどのように相互作用しているかが気になります。特に励起に関わるMOの位相の相対関係はどのようになっているのでしょうか?

大変重要な点をご指摘くださりありがとうございます。今のところ、エキシマ―状態で分子同士がどのように相互作用しているのか、また励起に関わるMOの位相の相対関係がどうなってるか、は明らかにできておりません。その理由の一つは、今回の系がドープ系であり、エキシマ―を形成しているラジカル2分子の相対配置(例えば、2分子が隣り合っているのかそれとも担体を挟んで遠い距離にいるのか、あるいは2分子が反転対称で関係づけられているのか否か、等)を明らかにするのが困難である点にあります。今後、時間分解分光法やドープ系ではない系でmagnetoluminescence挙動を実現する等により、エキシマーの構造及び電子的性質を解明していきたいと考えています。

質問⑱ Mika Sakai​​

ラジカル間の相互作用を狙う際に,ラジカルのスピン密度が分子のどこに偏っているか等の影響はありますか.トリメチルラジカルの系だと,嵩高い系の内側に囲まれている印象があるのですが,分子の中でのスピン密度の位置という観点で何らかの影響がありますでしょうか.

影響はあります。ラジカル上のスピン密度の分布の仕方は、through bondおよびthrough spaceの相互作用を通して、ラジカル間の相互作用の強さや様式(反強磁性的か強磁性的か)に直接的に影響します。トリアリールラジカルの系では、スピン密度が中心炭素原子上のみならずまわりの3つの芳香環にまで染み出しています。同様に、PyBTMの場合は窒素原子にもスピン密度が分布しています。これにより、2つの近接したラジカルにおいて、アリール基上のπ電子同士の重なりや原子間接触を介した磁気相互作用の発現が期待できます。

質問⑲ Yosuke Tani​

基本的な質問で恐縮ですが、ラジカルの吸収が非常にブロードなのはどう理解すればよいでしょうか。振電相互作用が大きいのかと(勝手に)思っていたのですが、発光するということは他の理由でブロードなのでしょうか?

450 nmより長波長(低エネルギー)領域の吸収がブロードであることの原因は、振電相互作用の影響に加え、禁制度の高い電子励起に基づく吸収帯が複数、本領域に存在していることに起因していると考えています。

発表2:武田 洋平(阪大院工・准教授)
含窒素芳香環の新奇構築法に基づいた多彩な発光分子材料の創製

含窒素芳香族化合物は、医農薬や電子材料など機能性物質として広く利活用されており、これらの効率的または新合成法の開発は重要です。我々は、入手容易な芳香族アミン類の新奇酸化的変換に基づいた含窒素芳香族化合物の構築法を開発してきました。また、合成した電子欠損性π電子化合物の特異的な電子受容性・発光性を活用することで、効率的な熱活性化遅延蛍光や室温リン光、コンフォメーション変化を鍵とする発光性メカノクロミズムなど、多彩な光機能を有する分子材料の創製に成功しました。本講演ではビナフタレンジアミン類の酸化的変換による含窒素芳香族分子の合成法と、それらを活用した多機能性発光分子の創製について発表します。

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質問① Takashi Hirose

ねじれたD-A分子では、一般的にTICTメカニズムによってクエンチされてしまう印象がありますが、ジベンゾフェナジン誘導体では概ね発光量子収率が良好なのは、何故でしょう?

ジベンゾフェナジンの光物理過程に関しては、実はちょうど調査中です。近日中に論文としてご紹介できるかと思います。

質問② Yosuke Tani​​

OLEDに応用する上で、配座多様性が非常に高い武田先生の分子の特徴は、どんなメリット・デメリットがあるでしょうか。

配座多様性により、発光特性が配座に大きな影響を受けます。考えられるメリットとしては、例えば同一の分子材料であっても、EL作製プロセスの条件により、EL特性を制御できることが挙げられます(実際、我々は塗布条件の違いによりEL発光特性の変調に成功しています:J. Mater. Chem. C 2019, 7, 6616)。これは逆にデメリットにもなり得ます。すなわち、配座の不均一性に起因したEL特性の予測困難性です。これらは表裏一体の側面があるので、私個人は分子の個性と捉えて、良い側面を伸ばしていきたいと日々思っています。

質問③ 田代啓悟​​

TADF効率は溶液中と結晶とでは変化するのでしょうか?TADFを利用した効率的なAIE特性を示す材料など作れたりできるのでしょうか?

分子にも大きく依存しますが、溶液中と結晶中ではそもそも分子の動きの自由度が大きく異なるので、逆交換交差や内部転換の効率が変化しますので、それに従いTADF特性も大きく変化いたします。TADFとAIE特性を兼ね備えた材料は、実際最近ホットなトピックの一つとなっており、ホストフリーのTADF有機EL素子も実現されています。さらに詳細は、総説(Chem. Asian J. 2019, 14, 1613)をご参照いただければ幸いです。

質問④ Mika Sakai​​

固体状態でのメカニカルな操作による発光色の変化において,分子の構造変化(軌道の性質の変化)と分子間の相互作用の影響とを,どの程度分けて評価することが可能ですか.あるいは,分子設計の際に考えるポイントはありますでしょうか.

凝集状態においては、分子間相互作用が全く無い系を考えるのはかなり困難かと思います。我々が開発している材料では、分子間距離にほとんど変化が無い範囲で配座変化のみ示すような系も見つかっています。計算技術や計測技術が高まっていることを鑑みると、構造(配座)変化と分子間の相互作用を分離して定量化する解析方法がそのうち開発されることを期待しています。

質問⑤ Makoto YAMASHITA

​硫黄架橋を合成したところですが、硫黄原子上の酸化度(スルホキシド・スルホン)を変えてチューニングも可能かと思いますがいかがですか?あと、最後の環状TADF分子ですが、もう少し自由度を下げるなどの細かなチューニングは可能でしょうか?

硫黄の酸化によるチューニングは可能だと思います。大きく電子状態が変わるので、光物性そのものに大きな影響があることは予測されます。ただし、スルホンなどの場合、若干光や熱に対する安定性が下がることが懸念されます。環状TADF分子に関しては、合成法を確立できたので、設計に自由度を持たせられると考えています。構造的な自由度という点では、あまりガチッとしすぎた構造になると逆に逆項間交差の効率を下げてしまいますが、微調整は可能だと思います。今後、色々なバリエーションをお見せできるよう精進いたします。

質問⑥ Kiyoshi Miyata​

環状DADA分子には結晶多型が存在するということでしたが、OLEDを作製した際はどちらの構造が優勢に存在することになるのでしょうか。

サドル型の方が熱力学的には安定であることはわかっていますが、OLEDの発光層中ではホスト材料との相互作用やパッキング効果が出てくる可能性があるので、正直今の所はわかりません。しかし、今後、ホストーゲスト系における立体配座の解析などを様々な分光法や計算化学と協働して明らかにしたいと強く思っているところです。

質問⑦ Kiyoshi Miyata​

質問というコメントですが、励起状態でも立体構造は変化しますよね。環状分子ではどのような傾向があるのか、興味深いです。

ご指摘の通りで、我々が取り扱っているD-A型分子は、励起状態と基底状態では大きく構造が違うはずです。この辺りの解析は今後の課題です。ぜひ宮田さんの卓越した解析技術のお力添えをいただきたいところですね。

質問⑧ Masaki Saigo​

励起状態での構造変化がどういった傾向なのか気になります。

質問⑦でもお答えしたように、まだ励起状態における構造変化は未解明です。しかし、我々が扱う系は、全般的に大きなストークスを示すので、励起状態では構造が基底状態とはかなり様相が変わっているのは間違いないと思います。実際目で見てみたいところですが、そのような術は持ちあわせていませんので、今後、高速分光や計算化学のプロのお力を借りて協働的に解明していきたいと思います。そのような異分野研究者の方からの共同研究のご提案は、いつでもオープンに受け付けております。

質問⑨ Nobuhiro Yanai

​環状構造などで更に構造を剛直にしていくと、どこかでTADFが起きにくくなったりするのでしょうか。

ご指摘の通りで、最近の研究では、TADF分子における逆項間交差には分子の動きが非常に大きな役割を果たしていることがわかってきています。あまりにも剛直にすると、逆項間交差の代わりに励起三重項からの発光(リン光)が観測されるようなケースも多く報告されています。

質問⑩ Nobuhiro Yanai

​近赤外に高効率なTADFを示すことは可能でしょうか?

近赤外(NIR)領域でTADFを示す分子材料は、非常に多くの分野での応用が想定されることから、最近ホットなトピックの一つです。我々は、自分たちのD-A-D分子でexciplexを形成することで、これが可能なことを2016年に示しました(Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 5739)。しかし、もともとNIR領域での発光を示す材料そのものの設計が難しいこともあり、真に高効率なNIR-TADF有機材料は今後より研究が進んでいくのではないかと思っています。

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